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学会賞  

2021年度 学会賞

論文賞 川口 直也、菅原 遼、畔柳 昭雄
東京都江東5区における民間企業の立地特性と水害対策の動向に関する調査研究
(沿岸域学会誌2020年6月号登載)
 本論文は、将来大きな水害が見込まれる東京都の低海抜部に位置する江東5区に本社機能を有する企業を対象に詳細なアンケート調査を実施し、企業の水害への対策意識および対策の現状を明らかにしている。公表されたデータ、アンケートおよびヒアリング調査により、海抜ゼロメートル地帯が広がる東京都江東5区の浸水想定区域に本社機能を有する民間企業では、浸水リスクに応じた対策が講じられていない上、行政対応も受動的な取り組みに留まっており、ハード、ソフト対策において水防災対策に問題があることを指摘している。さらに調査結果をもとに、行政の対応と民間企業の対策を組み合わせ、様々な状況に応じた対策手順をフローチャート形式で整理した独自の「水害対策手順」を提案している。本論文で述べられている「水害対策構築手順」は、今後起こりうる大規模水害に対し、江東5区の民間企業の水害対策に役立つだけではなく、発生時の浸水リスク低減につながるものであり、他地域への応用も期待でき、沿岸域研究への貢献は大きいと言える。 以上を総合して、本論文は論文賞受賞に相応しいと判断した。
論文賞 脇田 和美、福代 康夫
貝毒発生時の潮干狩り場における食の安全対策とその意義
~大阪府内での取り組みと新聞報道から~
(沿岸域学会誌2020年12月号登載)
 本論文は、貝毒発生時の大阪府内の潮干狩り場において、来場者が潮干狩りで採ったアサリとあらかじめ用意した安全なアサリを交換するという試みについて、新聞報道という客観的な指標を用いて社会受容性を分析している。 本論文で行った半構造化インタビューから、潮干狩り場の運営主体や行政が連携して行ってきた取組の紹介や、新聞記事に対する計量書誌学的分析から明らかとなった貝毒発生そのものやそれに対する対応策や試みに対する社会の反応は、貝毒発生時においても、貝毒中毒を発生させず、潮干狩り機会の安定的な供給につながる重要な知見である。来場者が潮干狩りで採ったアサリとあらかじめ用意した安全なアサリを交換するという手法が、徐々に来場者に受け入れられ、今では違和感なく貝毒発生時でも潮干狩りができるという捉え方が来場者に定着していることは、同様の貝毒被害が生じている全国の潮干狩り場にとっても有益な情報であり、沿岸域研究への貢献は大きいと言える。 以上を総合して、本論文を論文賞受賞に相応しいと判断した。
論文奨励賞 唐崎 雄亮
鉄道線路が津波避難に及ぼす影響に関する研究
(沿岸域学会誌2020年9月号登載)
 本論文は、南海トラフ地震による津波発生時の避難に際し、鉄道の線路を横断しなければならない地域を抽出し、線路横断を伴う避難の課題を明らかにしている。 地図分析により線路横断を要するとされた地域の自治体と鉄道事業者を対象したアンケートから、自治体は、避難時に、線路横断の必要性と線路が避難の阻害要因になることを認識しているが、対策をしている自治体は少ないこと;鉄道事業者は、避難時でも線路横断施設以外の線路横断を控えて欲しいと考えていること;鉄道事業者と協議を行っている自治体は30%弱に留まっていることを明らかにしている。現地調査から、多くの地区で線路横断施設への標識整備が不十分であるが、一部の地域では、避難時の線路横断のための施設整備の事例も確認している。これらを踏まえ、線路横断を要する地域での提言を述べている。 本論文で得られた知見は、線路横断を要する地域での避難に必要な施策を検討する上で大変有用であり、沿岸域研究への貢献は大きいと言える。 以上を総合して、本論文は論文奨励賞受賞に相応しいと判断した。
論文奨励賞 杉本 あおい
現代日本社会における「関係人口」の実態分析:全国アンケート調査の結果から
(沿岸域学会誌2020年12月号登載)
 本論文は、農山漁村を含む地域の活性化の一方策として、「関係人口」の創出に注目し、その実態を実証的に分析している。 先行する関連研究を参考にした理論的な整理と、全国5,000人を対象としたアンケートに基づく地域との関わりの実態調査の分析から、農山漁村活性化への重要な示唆を与える結果を得ている。アンケート結果より、「関わりのある地域(関係地)」を有している者のうち、血縁関係やライフイベント(就学、就労等)だけではなく、これらを介さない関わり方が多く存在すること;高い地域愛着を持つ者が農山漁村活性化に存在していること;一方、地縁を介した地域に負の愛着を有する者も存在していることを明らかにしている。これらの結果から、人と地域の関係性には血縁の有無に関わらず正負の多様性があり、農山漁村活性化を検討する際には単に人口増加だけでなく、地域愛着を含む関係性の「内実」に着目することの重要性を論じている。本研究で得られた結果は「関係人口」という新たな視点からの農山漁村活性化に関して、大変有用な示唆に富んでおり、沿岸域研究への貢献は大きいと言える。 以上を総合して、本論文は論文奨励賞受賞に相応しいと判断した。
出版・文化賞 沿岸域の建築環境工学(テクネ社2020年11月刊)
著 者:川西 利昌
 本書は、沿岸域の建築環境に関する書籍が従来極めて少ない中で先駆的・独創的・啓発的な書籍であること、沿岸域の気象災害である高潮、津波、強風、塩害、劣化などと建築の関係について豊富な図と写真及び学術的なデータに基づき分かりやすく論じていること、気象災害の被害例と防護策を論じていること、日本海側の長崎、山陰、北陸、東北の特徴ある沿岸建築を紹介していること、県立図書館、建築系大学図書館等に蔵され、閲覧に供されていることなどから、沿岸域に住む人々、働く人々、建築設計者あるいは建築の浸水害に悩む人々にとって役立つだけではなく、より広範な人々の沿岸域への知識の普及にも役立つものとなっている。 以上を総合して、本書は出版・文化賞受賞に相応しいと判断した。
出版・文化賞 竹島をめぐる韓国の海洋政策(成山堂書店、2021年)
著 者:野中 健一
 我が国の沿岸域に相当する竹島周辺海域については、韓国政府もまた管轄権を主張し各種政策を執り行っている。しかし、竹島の領有権に関する研究ばかりが蓄積される一方で、韓国政府が行っている海洋政策への知的関心は明らかに低かった。例えば、韓国政府はいかなる意図(対日不満)の下、竹島周辺海域でどのような行動をとってきたのかという素朴な疑問に答えることができる研究さえ、ほぼ皆無である。このことが結果的に我が国および韓国における竹島理解を制約していたと言える。本書は、この点を正面から扱うべく、先行研究が極めて少ない中、韓国側の国会議事録や各種政府報告書を丹念に一つずつ読み込んでいくなど極めて長い時間を要する地道な作業を積み重ねて、韓国の諸政策の事実関係を整理したもので、その研究成果は画期的であると言える。 以上を総合して、本書は出版・文化賞受賞に相応しいと判断した。
出版・文化賞 森里海連環学ビジュアルブック みんなでちょっと幸せになれる
Co-designのためのシチズンサイエンス(2020年5月発行)
編著者:法理樹里、清水夏樹、赤石大輔、時任美乃理
 本書は、幅広い分野の専門家と、地域のステークホルダーや将来世代(大学生・高校生)をまきこんで、『森と里と海と人のつながり』を見つめ捉え直してきた様々な取組を紹介した事例紹介集である。 紹介されている各々の取組が、沿岸域の重要性の理解と認識向上に貢献するものであると評価し得るとともに、親しみやすく手に取ってもらえるように写真や絵を随所に使用するなどの工夫が凝らされていること、3,000人を対象とした一般市民の環境意識についてのアンケートを定量的に解析した結果を分かりやすく解説した有用な研究報告が含まれていること、行政関係者を巻き込んだ取組の紹介など行政と地域の発展的なかかわり方を再考するきっかけを提供していることなどが特徴的である。また、執筆者らは、HPでの全文の内容公開や英語版アブストラクトの作成など国内外への展開をするとともに、本書を導入として、持続可能な未来について議論するサイエンスアウトリーチ活動を継続的に展開している。 以上を総合して、本書は出版・文化賞受賞に相応しいと判断した。
出版・文化賞 In the Era of Big Change: Essays About Japanese Small-Scale Fisheries
(TBTI Global Publication Series,2020年7月15日)
編著者:李 銀姫、浪川 珠乃
 本書は、日本の家族経営を中心とする小規模漁業に焦点を当て、その今日的な課題を解明し、世界の小規模漁業の持続可能性の実現に向けた日本の小規模漁業の役割と意義について考察した英文の書籍である。 内容は多岐にわたる。①導入として、日本の小規模漁業の存在意義及び概観、②制度的側面として、漁協の役割、女性の貢献、漁業法の改正、里海の考え方等、③現状として、伝統と文化、海女、小型捕鯨、漁場整備、就業状況等、④新たな胎動として、六次産業化、ブランド化、都市漁村交流、水産物活用技術等、⑤国際比較として、アジア及び欧米の小規模漁業との比較分析等について論じ、⑥グローバル化の視点から、海洋温暖化、再生可能エネルギー、環境教育、海洋保護区、SDGs、超学際的アプローチ、ブルージャスティス等の視点から日本の小規模漁業に考察を加えている。このように本書は、50名ほどの執筆者陣らによる日本の小規模漁業を体系的に捉えた初めての研究成果であって、TBTI Global Publication Seriesとして英文で出版されていることもあり、国際社会に向けてアピールすることにも大きな意義がある。 以上を総合して、本書は出版・文化賞受賞に相応しいと判断した。

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