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学会賞  

平成30年度 学会賞

論文賞 渡邊 亮、桜井 慎一、鷹島 充寿
「津波ハザードマップの表記内容の統一性に関する研究―全国の沿岸市町村における不統一の現状と課題―」(沿岸域学会誌平成29年6月号登載)
本論文は、全国の市町村における津波ハザードマップの統一性についての実態を調査・整理し、全国の津波ハザードマップの統一化に向けた課題を明らかにした独創的で有用性が高い研究である。 本研究では、まず全国547市町村のハザードマップを収集・分析し、全国的に統一が図られていないことを明らかにし、ハザードマップの表記方法に関する課題を幅広くとりまとめ、 様式(色やピクトグラムなど)を統一することの重要性を指摘している。また、不統一の要因について考察し、統一性を改善するための方策についても言及している。これら本研究で得られた知見は、今後のハザードマップの発展性に対して、貴重な示唆を示している。この研究をきっかけにして、ハザードマップの統一性の議論が高まる可能性が期待できる。 以上を総合して、本論文は論文賞受賞に相応しいものと判断した。
論文賞 居駒 知樹、惠藤 浩明、増田 光一、渋谷 省吾
「二重消波ケーソンの振動水柱型波力発電装置としての性能に関する研究」(沿岸域学会誌平成29年12月号登載)
本論文は、二重消波ケーソンを振動水柱型の発電装置として利用した場合の基本特性及び課題を明らかにすることを目的とした非常に意欲的で工学的な有用性が高い研究である。 本研究では、振動水柱型波力発電装置の性能評価を一次変換と二次変換に分け、一次変換の部分について、波高の影響、空気室体積の影響、斜波性能、及び圧力位相差の影響の観点から、系統的に多数の実験ケースを丁寧に実施している。得られたデータは、高い信頼度を有しており、工学的・学術的に価値の高いものである。これらの実験データの共有化が図られることで、振動水柱型波力発電装置を始めとする波力発電技術のより一層の発展及び新技術の展開に繋がることが期待できる。 以上を総合して、本論文は論文賞受賞に相応しいものと判断した。
論文奨励賞 杉野 弘明
「自由連想調査法を用いた全国の海のイメージ構造の把握」
(沿岸域学会誌平成29年6月号登載)
本論文は、自由連想調査法を全国的なWebアンケートを通じて実施し、その結果をテキストマイニングの技術により可視化することで総体的な海のイメージ構造を明らかにした社会的有用性が高い研究である。 日本は地理的及び歴史的に海と人々の生活の関わりは非常に密接であり、「海に対する人々のイメージ構造」を明らかにする試みは非常に有用である。また、Webアンケートを用いた調査、自由連想記述調査の実施、及びテキストマイニング技術による可視化等の海のイメージ構造を明らかにした手法は、高い解析技術であると共に、新規性及び独創性がある。さらに、本研究で明らかとなった住民の海に対する複雑な意識構造は、今後の沿岸域の利活用に際する合意形成に対して、有用な示唆に富んでいる。 以上により、論文奨励賞受賞に相応しいと判断した。
論文奨励賞 法理 樹里
「サンゴ礁の生態系サービスに対する利害関係者の関心分析―沖縄県石西礁湖自然再生協議会を事例として―」
(沿岸域学会誌平成29年9月号登載)
本論文は、石西礁湖自然再生協議会を調査対象として、生態系や生態系サービスに対する地域の人々の関心と保全活動に対する意識への考察を試みたものである。 サンゴ礁生態系から得られる様々な生態系サービスと利用形態の存在を前提とし、その関心の差を配布式アンケート調査により把握したうえで、定量的な解析を実施している。その結果、同じ地域に暮らす住民であっても、沿岸域の利用形態に応じて、生態系自体や、そこから得られる生態系サービスに対する関心の内容に大きな差があることを明らかにした。また、すべての利用形態において,サンゴ礁保全活動に対する満足度は低いことを示した。これらの結果を踏まえ、今後の沿岸域管理や生態系保全に関する現場での議論においては、利用形態の違いに由来する関心の差を考慮したうえで、生態系に関する科学的な情報共有を行うことが、合意形成を促進するために有効であると結論づけている。 本論文は、沿岸域の保全・管理を効果的に実施するための方策が、地域の人々の主観的評価・心理学的特徴に即して検討可能であることを実証している。さらに、地域での合意形成の促進に必要とされる科学的知見の性格や内容にも考察を加えている。同様の課題を抱える他地域の沿岸域管理へも応用が可能であるとともに、今後のScience-Policy Interfaceの在り方にも大きな示唆を与える研究成果である。 以上より、論文奨励賞受賞に相応しいと判断した。
出版・文化賞 『情熱都市YMM21−まちづくりの美学と力学−』(鹿島出版会 2017年2月15日発行)
編著者:金田 孝之、国吉 直行、中尾 明、浜野 四郎
本書は、事業着手から35年にわたる「横浜みなとみらい(MM)21」という臨海部再開発としてのまちづくりに携わった横浜職員OBらの闘いの記録である。闘いの記録と書いたのは、プロジェクトに携わった人々が抱えた法制度、組織論、資金調達などの諸問題を解決し、かつ超越しつつ、「時代」という魔物をどのように味方につけて成功に導いたかという物語である。特に、臨海部のまちづくりという形而上学的デザイン論にとどまらず、わが国のまちづくりで初めて統合的計画論を推し進め画期的な手法を確立したことである。いわゆる、明確なコンセプトを提案しつつ、プランニングレベルではフレキシブルに新手法や制度を導入し、デザインレベルではダイナミックで有機的なアーバンデザインを採用している。本書は、我が国における大規模臨海部再開発の実践を通して得られた再開発手法や教訓を後世に伝える著であり、沿岸市町村等の自治体職員にとどまらず、臨海部空間をフィールドとした都市計画を学ぶ学生のバイブルとなると確信して、ここに推薦するものである。
出版・文化賞 『沿岸域の安全・快適な居住環境』(成山堂書店 2017年4月8日発行)
著者:川西 利昌、堀田 健治
世界、日本の人日の半分は、沿岸域に居住しているにも関わらず、その領域の居住環境を論じた書籍は極めて少ない。従来、沿岸域に関する書籍は、都市計画や政策など社会学的なもの、津波・漂砂・環境汚染など、力学的・化学的なものに限定されていた。本書は沿岸域の快適な居住環境の要素を記したもので、風土論からはじまり広範囲に住むための環境条件を扱い、さらに各要素を体系づけるという新しい試みをしている。 本書の内容は、建築環境工学的な立場から沿岸域を捉え、海岸気象、風土、温熱、塩分、光、紫外、日、 さらに災害と放射能など多岐にわたって説明している。沿岸域の建築物を設計する際の基本的な知識が得られるよう配慮されている。本書は研究途上にある沿岸域の建築環境工学の現状について詳細に記し、今後この分野に進む学生、技術者、研究者、建築家の一助となることを願って刊行された。
出版・文化賞 『水波工学の基礎』(成山堂書店 2016年4月18日発行)
著者:増田 光一、居駒 知樹、惠藤 浩朗
現在、わが国では海洋基本法が制定され、海底の鉱物資源開発や洋上風力発電など様々な分野での海洋の開発・利用が展開されつつある。そして、活発に展開される海洋利用の全ての分野に共通することとして、まず、波浪、潮流といった海洋環境下でも安定した活動基盤となる海洋構造物(海洋建築物を含む)を海域に設置しなければならない。 ところで、本書は、海洋建築を計画・設計する際に必要となる、水波の性質を、解り易く解説したもので、海洋建築の入門者に身に付けてほしい常識を提供している。本書では更に再生可能エネルギーである波浪エネルギーの吸収原理が解り易く解説されている。また東日本大震災でクローズアップされた津波についても解り易く解説されている。これらは専門家にも役立つ内容である。従って、本書は、海洋建築及び沿岸域工学を目指す入門者から専門家まで広い層の方々に有用であると考えられる。

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